「あせも(汗疹)」と聞くと、夏の暑い日に子供たちがかきむしっている姿を思い浮かべるかもしれません。実はこのあせも、高温多湿な日本の夏とは切っても切れない、古くからの付き合いがある皮膚の悩みです。
昔の人々も、あせもには様々な知恵で対処してきました。例えば、江戸時代には、夏の土用の丑の日に「桃湯(ももゆ)」に入るという習慣があったそうです。桃の葉にはタンニンという成分が多く含まれ、これが炎症を抑える効果を持つと考えられていました。夏の強い日差しによる日焼けや、あせものケアに、自然の恵みを利用していたのですね。俳人の高浜虚子も「なく声の大いなるかなあせもの児」という句を詠んでおり、あせもに悩む子供の姿は、昔から日本の夏の風景の一部だったことがうかがえます。
また、戦国武将の加藤清正が皮膚病の治療に温泉を利用したという話もあり、その中にはあせもも含まれていたかもしれません。このように、歴史上の人物も皮膚の健康には関心を持っていたようです。
明治時代に入っても、あせもの治療には天瓜粉(てんかふん、キカラスウリの根から作られた粉)や葛粉、小麦粉などが使われていました。しかし、明治時代の終わり頃、ドイツ医学の知識を取り入れた新しい試みが始まります。弘田長博士と丹波敬三教授が、より効果的なあせもの治療薬として「シッカロール」を開発しました。これは、有効成分として亜鉛華(酸化亜鉛)を用いた画期的な製品で、1906年(明治39年)に発売され、現代のベビーパウダーの原型となりました。
このように、あせもへの対処法は、民間療法から科学的根拠に基づいた治療へと進化してきました。このページでは、現代の医学的知見に基づき、あせもとその悪化した状態である「あせものより」について、詳しく解説していきます。
あせも(汗疹:かんしん)とは、医学的には「汗疹」と呼ばれる、非常にありふれた皮膚トラブルです。私たちの皮膚には、汗を分泌する「汗腺(かんせん)」という器官と、その汗を皮膚表面まで運ぶ「汗管(かんかん)」という管があります。あせもは、この汗管が何らかの原因で詰まってしまい、汗が皮膚の外に出られずに皮膚内部に溜まってしまうことで起こります。まるで、細い水道管が詰まって水が逆流し、周囲に漏れ出してしまうような状態をイメージすると分かりやすいかもしれません。
一方、あせものより(汗疹性湿疹:かんしんせいしっしん、または膿疱性汗疹:のうほうせいかんしん)は、あせもとは別の病気ではありません。これは、あせもが悪化してしまった状態を指します。あせも、特に「紅色汗疹」という種類はかゆみを伴うことが多く、掻き壊してしまうことで炎症がひどくなり、湿疹のようになってしまった状態(汗疹性湿疹)や、そこに細菌が感染して膿(うみ)を持ったブツブツ(膿疱)ができてしまった状態(膿疱性汗疹、多発性汗腺膿瘍とも呼ばれます)を「あせものより」と呼ぶことがあります。
あせもは、特に気温と湿度が高い環境で発生しやすく、ここ新潟県県央地域の夏のような高温多湿の気候では、多くの方が経験する可能性があります。赤ちゃんや子供は特に汗をかきやすく、皮膚の機能も未熟なため、あせもができやすい傾向にあります。しかし、大人でも、スポーツや屋外での作業、発熱時など、大量に汗をかく状況では誰にでも起こり得ます。
多くの場合、あせもは軽い症状で済みますが、かゆみが強くて日常生活に支障が出たり、掻き壊して「あせものより」に進行し、細菌感染などを起こしたりすると、適切な医学的治療が必要になります。
「あせもくらいで病院に行くなんて…」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、軽いあせもは自然に治ることもあります。しかし、皮膚科専門医の診察を受けることには、いくつかの重要な理由があります。
あせものように見える赤いブツブツやかゆみのある発疹は、実は他の皮膚病である可能性もあります。例えば、カビ(真菌)の一種が原因のカンジダ症やマラセチア毛包炎、アレルギー反応による接触皮膚炎(かぶれ)や蕁麻疹(じんましん)、アトピー性皮膚炎、細菌感染による「とびひ(伝染性膿痂疹)」など、見た目が似ている病気はたくさんあります。
自己判断で市販薬などを使用した場合、もし原因が違っていれば、効果がないばかりか、かえって症状を悪化させてしまう危険性もあります。例えば、あせもだと思ってステロイド外用薬を塗っていたら、実はカンジダ症で、症状が悪化してしまった、というケースも少なくありません。
皮膚科医は、これらの病気を見分ける専門的な知識と経験を持っています。必要に応じて、皮膚の表面をこすってカビがいないか顕微鏡で確認する検査(真菌検査)などを行うこともあります。正確な診断こそが、適切な治療への第一歩です。
皮膚科医は、あせもの種類(後述する水晶様汗疹、紅色汗疹、深在性汗疹)や重症度、発疹が出ている場所、患者さんの年齢などを考慮して、最適な治療法を選択します。
炎症やかゆみが強い場合には、適切な強さや剤形(クリームや軟膏など)のステロイド外用薬を処方します。細菌感染を合併している「あせものより」の状態であれば、抗生物質の外用薬や内服薬が必要になります。皮膚科医は、これらの薬剤の効果と副作用を熟知しており、安全かつ効果的な治療を提供できます。
強いかゆみから掻き壊してしまうと、皮膚のバリア機能が壊れ、細菌が入り込みやすくなります。その結果、「とびひ」のように感染が広がったり、治りにくい湿疹(汗疹性湿疹)になったり、汗腺自体が化膿してしまう「汗腺膿瘍」といった合併症を引き起こすことがあります。
特に小さなお子さんの場合、小児科でもあせもの基本的な治療は可能ですが、症状がひどい場合、繰り返す場合、診断がはっきりしない場合、あるいは合併症を起こしている場合には、皮膚の専門家である皮膚科医の診察が不可欠です。皮膚科医は、これらの合併症を的確に診断し、より専門的な治療を行うことができます。
あせもは、一度治っても、汗をかく状況が続けば再発しやすいものです。そのため、治療だけでなく、日頃のスキンケアや生活習慣の改善が非常に重要になります。皮膚科医は、患者さん一人ひとりの肌質や生活環境に合わせて、具体的なスキンケア方法(洗い方、保湿の必要性など)や、衣類の選び方、環境整備などの予防策について、専門的なアドバイスを行います。特にアトピー性皮膚炎など、もともと皮膚のバリア機能が弱い方には、より丁寧な指導が必要です。
当院は、地域に根ざした皮膚科クリニックとして、県央地域の皆様のお肌の健康をサポートすることを目指しています。患者様一人ひとりの声に耳を傾け、ご満足いただける、丁寧で分かりやすい医療の提供を心がけております。保険診療を中心に、赤ちゃんからご年配の方まで、あらゆる年齢層の患者様に対応いたします。
あせも・あせものよりの治療においては、以下の点を重視しています。
まずは、丁寧な視診により、あせものタイプ(水晶様、紅色、深在性)を正確に見極めます。同時に、見た目が似ている他の皮膚疾患(カンジダ症、アトピー性皮膚炎、とびひ等)との鑑別を慎重に行い、誤診を防ぎます。必要であれば、真菌検査なども行います。
診断に基づき、症状の重症度、範囲、部位、年齢、そして県央地域の気候や、キャンプ・農作業といったアウトドア活動などのライフスタイルも考慮に入れ、個々の患者様に最適な治療プランを提案します。
治療薬の使い方だけでなく、日常生活での注意点について、具体的で実践しやすいアドバイスを提供します。
赤ちゃんや小さなお子様のあせもに対しては、特に肌に優しい治療を選択し、保護者の方へのスキンケア指導にも力を入れています。
あせもや掻き壊しが治った後に、茶色いシミ(炎症後色素沈着)や赤みが残ってしまうことがあります。当院では、このような美容的なお悩みに対しても、レーザーやケミカルピーリングなど、症状に応じた治療(自費診療)をご提案できます。皮膚のトラブルからその後のケアまで、一貫してサポートできる体制を整えています。これにより、患者様は急性期の治療から美容的な側面のフォローアップまで、当院で完結できます。
あせもは、汗の通り道である汗管が皮膚のどの深さで詰まるかによって、主に3つのタイプに分けられます。タイプによって見た目やかゆみの有無、できやすい場所などが異なります。
汗管が皮膚の一番表面に近い「角層」という部分で詰まります。
直径1~2mm程度の、小さくて透明な水ぶくれ(水疱)がたくさんできます。まるで水滴や水晶の粒がついているように見えます。周りに赤みはなく、水ぶくれの膜は非常に薄く、少しこするだけですぐに破れてしまいます。新生児では、白っぽく見えることもあります(Miliariacrystallinaalba)。
ほとんどありません。
主に体の中心部(体幹)、首、わきの下などによくできます。新生児では顔にもよく見られます。高熱が出た時や、日焼けの後などにもできやすいです。
一時的なもので、特別な治療をしなくても数日で自然に消え、その後、薄い皮むけがみられることがあります。
水晶様汗疹より少し深い、表皮の中で汗管が詰まります。
1~4mm程度の赤いブツブツ(丘疹)がたくさんできます。小さな水ぶくれを伴うこともあります。ブツブツの周りも赤くなり、炎症を起こしている状態です。ここに細菌が感染すると、膿を持った黄色っぽいブツブツ(膿疱)になることもあり、これを「膿疱性汗疹」と呼びます。一般的に「あせも」というと、このタイプを指すことが多いです。
かゆみを伴うことが多く、チクチク、ピリピリとした刺激感を感じることもあります。かゆみの程度は様々ですが、時に非常に強くなることもあります。汗をかくと、かゆみが悪化する傾向があります。
汗が溜まりやすく、こすれやすい場所にできやすいです。首、胸、背中、わきの下、肘や膝の内側、ももの付け根(鼠径部)などが代表的です。高温多湿の環境、赤ちゃん、肥満気味の方、汗をかきやすい(多汗症)方によく見られます。
放置したり、掻き壊したりすると、湿疹化して治りにくくなったり(汗疹性湿疹)、細菌感染を起こしたり(膿疱性汗疹、とびひ)する可能性があります。また、汗管が詰まっているため、その部分の汗が出にくくなる(限局性無汗症)こともあります。
最も深い部分、表皮と真皮の境界あたり、あるいは真皮の上層で汗管が詰まります。紅色汗疹を何度も繰り返した後に起こることが多いとされています。
皮膚の色と同じか、少し白っぽい色をした、平らで硬めのブツブツ(丘疹)がたくさんできます。大きさは1~4mm程度です。赤みなどの炎症の兆候はあまり見られません。
通常、かゆみはありません。
主に体の中心部(体幹)にでき、時に手足にも見られます。熱帯地方や、高温環境下での長時間労働などで見られますが、日本では比較的まれです。
ブツブツが長く続くことがあります。このタイプのあせもが広範囲に及ぶと、汗をかく機能が著しく低下するため、体温調節がうまくできなくなり、熱中症や熱疲労を起こす危険性が高まります。
種類 | 閉塞部位 | 見た目 | かゆみ | 好発部位 | 主な対象/状況 |
---|---|---|---|---|---|
水晶様汗疹 | 角層内 | 小さな透明な水疱(水滴様) | ほぼなし | 体幹、首、わきの下、顔(新生児) | 新生児、発熱時、日焼け後 |
紅色汗疹 | 表皮内 | 赤い小さなブツブツ(丘疹)、時に水疱、膿疱(感染時) | あり(強いことも) | 首、体幹、四肢屈曲部、間擦部 | 乳幼児、高温多湿環境、多汗症 |
深在性汗疹 |
表皮真皮 境界部 |
皮膚色~蒼白色のやや 硬い丘疹 |
ほぼなし | 体幹 |
紅色汗疹の反復後、熱帯地方、まれ |
※この表は一般的な特徴をまとめたものです。実際の症状は個人差がありますので、正確な診断は当院にご相談ください。
あせもはどの年齢でも起こりますが、年齢によってできやすさや注意点が異なります。
あせもができる根本的な原因は、汗の通り道である「汗管」が詰まることです。では、なぜ汗管は詰まってしまうのでしょうか?そして、なぜ「あせものより」にまで悪化してしまうことがあるのでしょうか?
私たちの体は、体温調節などのために汗をかきます。汗は汗腺で作られ、汗管を通って皮膚の表面に出てきます。しかし、何らかの原因で汗管の出口、あるいは途中で詰まりが起こると、汗はスムーズに排出されなくなります。
この詰まりの原因としては、皮膚の垢(あか)や角質が剥がれ落ちたもの(ケラチン)が汗管の出口を塞いでしまうこと(角栓)、あるいは皮膚に常に存在している細菌(常在菌)、特に表皮ブドウ球(Staphylococcusepidermidis)などが作る「バイオフィルム」と呼ばれる膜のようなものが関与している可能性が考えられています。
行き場を失った汗は、汗管の中に溜まり、圧力がかかって汗管の壁から周囲の皮膚組織(表皮や真皮)へと漏れ出してしまいます。これが、皮膚への刺激となり、水ぶくれ(水晶様汗疹)や、炎症反応(赤みやかゆみ:紅色汗疹、深在性汗疹)を引き起こすのです。まるで、詰まったパイプから水が漏れ出して周囲を濡らし、トラブルを引き起こすのに似ています。
汗管が詰まりやすくなる、あるいは汗の量が増えてあせもができやすくなる要因には、以下のようなものがあります。
何といっても一番の要因は、高温多湿の環境です。気温が高いと汗の量が増え、湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、皮膚表面が常に湿った状態になりやすいため、汗管が詰まりやすくなります。まさに、夏の県央地域のような気候は、あせもができやすい条件が揃っていると言えます。
激しい運動、肉体労働、発熱、精神的な緊張など、大量に汗をかく状況は、あせもの直接的な引き金になります。
ぴったりとした服や、ナイロン・ポリエステルなどの通気性の悪い素材の衣類、包帯や絆創膏、湿布などで皮膚が覆われると、汗が蒸発しにくくなり、汗管が詰まりやすくなります。長時間同じ姿勢で寝ている場合(寝たきりの方など)も、背中やお尻にあせもができやすくなります。
赤ちゃんのように汗管が未発達な場合や、アトピー性皮膚炎などで皮膚のバリア機能が低下している場合は、あせもができやすいと考えられます。また、衣服などによる皮膚への摩擦も、汗管を詰まらせる一因となり得ます。
皮膚にもともと存在する常在菌、特に表皮ブドウ球菌が、汗管を塞ぐ角栓の形成に関与したり、炎症を引き起こす物質を出したりすることで、あせもの発症や悪化に関わっている可能性が指摘されています。
重要なのは、あせもは単に「暑いから」「汗をかいたから」できるのではなく、「汗の産生」と「汗管の閉塞」という二つの要素が組み合わさって起こるということです。汗をかくこと自体は正常な生理現象ですが、その汗がうまく排出されない状況が問題なのです。このメカニズムを理解することが、効果的な予防策(汗を減らすだけでなく、汗管が詰まらないようにする)につながります。
紅色汗疹に伴う強いかゆみは、患者さんにとって非常につらいものです。我慢できずに掻いてしまうと、皮膚の表面が傷つき、バリア機能がさらに低下します。この掻き壊しによって、炎症がさらに悪化し、じゅくじゅくした湿疹のような状態(汗疹性湿疹)になります。
さらに、傷ついた皮膚からは、黄色ブドウ球菌などの細菌が侵入しやすくなります。細菌が感染すると、膿を持ったブツブツ(膿疱性汗疹)ができたり、感染が周囲に広がって「とびひ(膿痂疹)」になったりします。これが「あせものより」と呼ばれる状態で、こうなると抗菌薬による治療が必要になります。
あせもの治療の基本は、「汗をかきすぎないようにする」「詰まった汗管を開放する」「炎症やかゆみを抑える」「細菌感染を防ぐ・治療する」ことです。具体的な治療法は、あせもの種類や重症度によって異なります。
軽い赤みやかゆみのある紅色汗疹には、酸化亜鉛(亜鉛華)を軟膏などが、皮膚を乾燥させ、保護し、穏やかにかゆみを和らげる効果があります。ただし、ベビーパウダーは、つけすぎるとかえって汗管を塞いでしまう可能性も指摘されており、医学的には酸化亜鉛製剤の方が推奨されることが多いです。
紅色汗疹で炎症やかゆみが強い場合には、ステロイド外用薬が治療の中心となります。症状の強さや部位、年齢に合わせて、適切な強さ(弱いものから中程度のもの(ロコイド®)など)のステロイド薬を、医師の指示に従って短期間使用します。汗をかきやすい部位には、軟膏よりもさらっとした使用感のクリーム剤が適していることがあります。
細菌感染を合併して膿疱ができている場合(あせものより)には、抗生物質を含む外用薬を使用します。
かゆみが非常に強く、夜眠れない場合などに、かゆみを抑える目的で抗ヒスタミン薬の内服が処方されることがあります。
細菌感染が広範囲に及んでいたり、深部に及んでいたりする場合(とびひや汗腺膿瘍など)には、抗生物質の内服が必要になることがあります。
このタイプは通常、特別な治療は不要です。涼しくして皮膚を乾燥させておけば、自然に治ります。
治療の基本は、暑熱環境を避け、発汗をできるだけ抑えることです。外用薬の効果は限定的であることが多いです。
あせもの治療と同じくらい大切なのが、あせもを予防し、再発を防ぐための日常生活での工夫です。特に、高温多湿な夏を過ごす皆様には、以下の点を心がけていただきたいと思います。
日中の最も暑い時間帯の激しい運動や屋外での長時間の作業は、可能な範囲で避けましょう。
あせもに関する研究も進んでおり、新しい知見が得られています。ここでは、特に注目される最近のトピックを3つご紹介します。
従来、あせもは汗や角質による物理的な汗管の詰まりが主原因と考えられてきました。しかし最近の研究では、私たちの皮膚に普段から存在している細菌(皮膚常在菌)、特に表皮ブドウ球菌(Staphylococcusepidermidis)が、あせもの発症に積極的に関与している可能性が示唆されています。これらの細菌が汗管内で「バイオフィルム」という膜を形成したり、汗管の細胞にダメージを与えて詰まりやすくする物質を産生したりすることで、汗の排出を妨げ、炎症を引き起こす一因となっているのではないかと考えられています。この発見は、単に汗や汚れを洗い流すだけでなく、皮膚の細菌バランスを整えることの重要性を示唆しており、将来的には皮膚常在菌に着目した新しい予防法や治療法が登場するかもしれません。
夏の不快な汗に対応するため、衣類に使われる素材も日々進化しています。特に、登山やスポーツなどのアウトドア分野では、汗を素早く吸収して外側に発散させる「吸汗速乾性」、空気を通しやすい「通気性」、そして濡れてもすぐに乾く「速乾性」に優れた高機能素材が次々と開発されています。例えば、肌面は汗を弾き、外側の生地に汗を移行させる二層構造のアンダーウェアや、特殊な編み方で通気性を高めたメッシュ素材などがあります。これらの高機能ウェアは、汗によるべたつきや汗冷えを効果的に軽減します。あせもができやすいでアウトドア活動を楽しむ方にとっては、適切なウェアを選ぶことが、快適さを保ち、あせもを予防するための有効な手段となります。
赤ちゃん、特に生まれて間もない新生児にあせも(特に水晶様汗疹)が多いことは経験的に知られていましたが、その背景にあるメカニズムの研究も進んでいます。ある日本の新生児病棟での調査では、約4.5%の新生児に水晶様汗疹が見られ、特に生後6~7日頃に発生のピークがあったと報告されています。これは、生まれたばかりの赤ちゃんの汗腺(汗管)が、機能的にまだ十分に成熟していないため、汗が詰まりやすいことが主な原因と考えられています。さらに興味深いことに、母親が出産時に発熱していた場合など、赤ちゃんがお腹の中にいる間にすでに汗管の詰まりが始まっている可能性も指摘されています。これらの知見は、新生児期の体温管理や適切な衣類の選択がいかに重要であるかを、改めて示しています。
透明な水ぶくれができるだけの「水晶様汗疹」は、涼しくして皮膚を乾かしておけば、数日で自然に治ることがほとんどです。特別な治療は必要ありません。しかし、赤みやかゆみを伴う「紅色汗疹」や、掻き壊してじゅくじゅくしたり膿んだりしている「あせものより」は、放置すると悪化したり、細菌感染を起こしたりする可能性があるため、適切な治療が必要です。かゆみが続く、赤みがひどい、範囲が広いなどの場合は、自己判断せずに皮膚科を受診しましょう。
軽いかゆみや赤みの「紅色汗疹」であれば、市販薬で対応できる場合もあります。酸化亜鉛や、非ステロイド性のかゆみ止め成分(クロタミトン、ジフェンヒドラミンなど)、あるいは比較的弱いステロイド成分を含む製品があります。ただし、汗をかく時期に油分の多い軟膏を広範囲に使うと、かえって汗管を詰まらせる可能性もあるため、剤形選びには注意が必要です。症状が強い、範囲が広い、膿を持っている、市販薬を数日使っても改善しない、といった場合は、必ず皮膚科を受診してください。特に、お子さんや顔などのデリケートな部分にステロイド薬を使う場合は、自己判断せず医師に相談することをおすすめします。
次のような場合は、皮膚科を受診してください。
いいえ、通常のあせも(汗疹)自体は、汗管が詰まることによって起こる皮膚の反応であり、感染症ではないため、人にうつることはありません。ただし、あせもを掻き壊したところに細菌が感染して「とびひ(伝染性膿痂疹)」の状態になると、その細菌は接触によって他の人や自分の体の他の部位にうつる可能性があります。とびひが疑われる場合は、タオルの共用などを避け、早めに皮膚科を受診してください(とびひの場合、プールなどが禁止されることもあります)。
お子さんのあせもケアでは、以下の点が特に重要です。
汗をかきすぎないように心がけることは、あせも予防に有効です。しかし、汗をかくこと自体は、体温を調節するために不可欠な、体の重要な機能です。完全に汗をかかないようにすることは現実的ではありませんし、健康的でもありません。大切なのは、汗を「管理」することです。通気性の良い服を着て汗がこもらないようにし、涼しい環境で過ごし、かいた汗はこまめに洗い流したり拭き取ったりして、汗管が詰まるのを防ぐことが重要です。
アトピー性皮膚炎とあせも(特に紅色汗疹)は、どちらも赤みやかゆみを伴うため、見分けるのが難しいことがあります。一般的な違いとして、あせも(紅色汗疹)は、汗をかいた後などに急に現れることが多く、比較的小さな赤いブツブツや水ぶくれが、汗の溜まりやすい場所(首、体幹、肘・膝の裏など)に多発します。一方、アトピー性皮膚炎は、慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返す病気で、皮膚が乾燥してカサカサしたり、ゴワゴワと厚くなったりすることが多く、特徴的な部位(乳幼児では顔や頭、学童期以降では肘・膝の裏など)に湿疹が出やすい傾向があります。ただし、汗はアトピー性皮膚炎を悪化させる要因の一つでもあるため、両者が合併していることもあります。正確な診断のためには、皮膚科専門医の診察を受けることが重要です。
あせも(汗疹)は、汗の通り道である汗管が詰まることで起こる、身近な皮膚トラブルです。特に、夏に高温多湿となる地域では、多くの方が経験されることでしょう。
あせもには、透明な水ぶくれができる「水晶様汗疹」、赤みとかゆみを伴う「紅色汗疹」、そしてまれにみられる「深在性汗疹」の3つのタイプがあります。掻き壊したり、細菌感染を起こしたりすると、「あせものより」と呼ばれる状態に悪化することもあります。
あせもの予防と対策の基本は、涼しい環境で過ごし、通気性の良い衣類を着用し、汗をかいたらこまめに洗い流すなどして、皮膚を清潔で乾燥した状態に保つことです。
軽い水晶様汗疹は自然に治ることが多いですが、かゆみが強い紅色汗疹や、感染を起こしている「あせものより」は、適切な治療が必要です。症状が長引く、かゆみが強い、膿んでいる、範囲が広いなど、気になる症状がある場合は、自己判断せずに皮膚科を受診することが大切です。
当院では、赤ちゃんから大人まで、あらゆる年齢層のあせも・あせものよりの診断と治療を行っております。豊富な経験に基づき、個々の患者様の症状やライフスタイルに合わせた最適な治療法と、県央地域の気候や生活環境を踏まえた具体的な予防策をご提案いたします。つらいかゆみや見た目の悩みから解放され、快適な毎日を送るためのお手伝いができれば幸いです。どうぞお気軽に当院にご相談ください。
あせも(特に紅色汗疹)と症状が似ていて、見分ける必要がある主な皮膚疾患には、以下のようなものがあります。自己判断は難しいため、気になる症状があれば皮膚科にご相談ください。
・接触皮膚炎(かぶれ:アレルギー性または刺激性)
・アトピー性皮膚炎
・毛嚢炎(毛包炎)
・カンジダ症(特に間擦疹)
・虫刺され・虫刺皮膚炎(丘疹性蕁麻疹など)
・蕁麻疹(じんましん)
・水痘(みずぼうそう)
・伝染性膿痂疹(とびひ)
・汗疱・異汗性湿疹
・脂漏性皮膚炎
・貨幣状湿疹
・多形紅斑
・単純ヘルペス
・疥癬(かいせん)
・酒さ
・薬剤性発疹(薬疹)
・汗管腫
・一過性棘融解性皮膚症(グローバー病)
・膿疱性乾癬
・新生児ざ瘡(新生児にきび)または新生児中毒性紅斑