釣りの仕掛けに使う「返し(かえし)」の付いた針を思い浮かべてみてください。一度引っかかると、ちょっとやそっとでは外れませんね。糸リフトは、この「返し」とよく似た小さなとげ(コグと呼びます)が付いた、体の中で溶けていく細い糸を、皮膚の下にそっと通す施術です。とげが皮膚の下の組織に引っかかり、たるんで下がってきた頬やフェイスラインを、少しだけ上に引き上げます。メスで切らずに、糸の力で顔のたるみにアプローチする方法だとお考えください。
年齢とともに「頬の位置が下がった」「フェイスラインがぼやけてきた」「ほうれい線が深くなった気がする」といったお悩みは、多くの方が感じるものです。糸リフトは、こうした軽い〜中くらいのたるみに対して、比較的手軽にリフトアップを試したい方に向けて行われてきました。ただし、当院ははじめに正直にお伝えしておきたいことがあります。糸リフトは「切らずに大きく若返る魔法」ではありません。後ほどくわしく説明しますが、期待できる効果は控えめで、持続する期間も長くはなく、日本ではまだ承認された糸が一つもないという事情もあります。良い面だけでなく、こうした限界やリスクまで知っていただいたうえで選んでいただくことを、当院はとても大切にしています。
糸リフトは、皮膚の下に糸という「異物」を入れる施術です。エステサロンで受けられる肌の表面のケアとは、根本的にまったく違うものだとご理解ください。皮膚を貫いて糸を通す行為は、法律上、医師(または医師の指示のもとで行う医療者)しか行うことができない医療行為です。エステティックサロンやセルフケアで行えるものではありませんし、そのような施術を受けることは大きな危険を伴います。
また、顔の皮膚の下には、表情を動かす神経(顔面神経)や太い血管、唾液を出す管など、傷つけてはいけない大切な組織がたくさん通っています。どこを、どのくらいの深さで、どの向きに糸を通すのか。ここには解剖(体の構造)の正確な知識が欠かせません。皮膚と皮膚の下の構造を日々診ている皮膚科・美容皮膚科の専門医が担当することの意義は、まさにここにあります。
さらに大切なのが、万一トラブルが起きたときの対応です。糸リフトでは、後述するように感染や糸が透けて見える、しこりができる、といったことが起こり得ます。こうしたとき、その場限りではなく、抗菌薬の処方や糸の抜去、経過の見守りまで一貫して診てもらえる医療機関で受けることが、患者さんの安心につながります。当院は「入れたら終わり」ではなく、その後の経過まで責任を持って診ることを前提に施術を行っています。
糸リフトが比較的向くのは、軽い〜中くらいのフェイスラインや頬のたるみが気になり始めた方です。逆に、皮膚が大きく余ってしまっているような強いたるみには、糸の力だけでは十分に対応できません。そうした場合は、切開を伴う手術(フェイスリフト)のほうが向くこともあります。ご自身がどの段階かは、診察でご一緒に確認しましょう。
なお、糖尿病などで感染しやすい方、血が止まりにくいお薬を飲んでいる方、金属やお肌にアレルギーのある方などは、そもそも施術に向かないことがあります。年代だけでなく、体質や持病も含めて総合的に判断します。
糸リフトの引き上げには、大きく分けて二つの働きがあると考えられています。
一つめは、物理的に引っかけて持ち上げる力です。とげ(コグ)の付いた糸を皮膚の下に通すと、それぞれのとげがまわりの組織を捕まえます。たくさんの小さな「返し」が組織を引っかけることで、下がってきた頬などを上方向に寄せて固定するイメージです。ちょうど、ほどけかけた網を細い糸で編み直して形を整えるような働きだとお考えください。
二つめは、糸のまわりに体が反応して起こる変化です。糸は体にとって異物ですから、まわりの組織がそれを取り囲むように反応し、コラーゲンと呼ばれる線維がつくられると考えられています。これによって、多少の引き締まりが期待できるとされています。
ここで大切なのは、糸そのものは時間とともに体の中で分解されて溶けてなくなる、という点です。溶ける糸を使うことで、体内にずっと異物が残らないという利点がある一方で、糸が溶けていくにつれて引き上げの力も弱まっていくことになります。これが、糸リフトの効果が長続きしにくい理由の一つです。とげで引っかける力も、体がつくる線維も、たるみの重力にずっと打ち勝てるほど強いものではない、というのが正直なところです。
治療の流れ:まず診察でたるみの程度を確認し、糸リフトが向くか、リスクも含めてご説明します。ご納得いただけたら、局所麻酔などで痛みをやわらげたうえで、細い針やカニューレ(先の丸い管)を使って糸を皮膚の下に通していきます。糸の本数や向きは、たるみの状態に合わせて決めます。施術そのものは、本数にもよりますが数十分程度で終わることが一般的です。
期待できる効果と持続:国が関わる形でまとめられた「美容医療診療指針(令和3年度改訂版)」では、糸リフトについて「一時的な改善は期待できるが、効果は大きくなく、持続する期間も短めである」と評価され、推奨度は2(条件によっては行ってもよいが、強くはすすめない)とされています。当院がくり返し「効果は控えめです」とお伝えするのは、このような公的な評価にもとづいています。劇的に若返る施術ではないことを、どうか前提としてお考えください。
回数の目安:効果が永続するものではないため、しばらくして引き上げが弱まった段階で、ご希望に応じてくり返し検討することになります。ただし、くり返すほど費用の負担も増え、糸を入れる回数が増えることにともなうリスクもあります。回数ありきではなく、そのつどご相談のうえ判断します。
ダウンタイム(回復までの期間):施術後は、数日〜しばらくの間、腫れ・つっぱり感・内出血(青あざ)などが出ることがあります。口を大きく開けたときの引きつれ感を覚える方もいます。多くは時間とともに落ち着いていきますが、感じ方には個人差があります。
費用:1本あたり22,000円(税込・自由診療)です。糸リフトは健康保険の使えない自由診療で、必要な本数は状態によって変わります。総額の目安は診察のうえでお伝えします。
リスク・副作用:腫れ・内出血・つっぱり感のほか、まれではありますが感染、しこり(肉芽腫)、糸が透けて見える・ひきつれる、左右差、糸が飛び出す、そして重いものとして糸の抜去が必要になる感染や、顔面神経の麻痺といった重篤な合併症が起こり得ます。神経の麻痺は、表情が動かしにくくなるなど生活に関わる問題につながることがあります。頻度は高くないとされますが、ゼロではありません。こうした重い合併症が起こり得ることも、施術前に必ずご説明します。
受けられない方(禁忌):妊娠中・授乳中の方、施術部位に感染や炎症がある方、血が止まりにくいお薬を飲んでいて中止できない方、ケロイド体質の方、糸の素材にアレルギーのある方、感染しやすい持病のある方などは、施術をお受けいただけない、または慎重な判断が必要になります。
国内未承認であることについて(重要):糸リフトに使われる糸は、日本国内で承認されたものが現在一つもなく、すべて国内未承認品です。当院を含め、国内で使われている糸は医師が個人の責任で輸入するなどして用いています。そして、国内未承認の医療機器による健康被害は、万一起きたときに国の医薬品副作用被害救済制度の対象外となります。この点を十分にご理解いただいたうえで、お選びいただく必要があります。
いいえ。糸は時間とともに溶けてなくなり、引き上げの力も弱まっていきます。公的な診療指針でも「効果は大きくなく、持続も短め」とされています。永続する施術ではないとお考えください。
一概には言えません。糸リフトは切らずに済み負担が軽い一方で、効果は控えめです。たるみが強い場合は手術のほうが向くこともあります。どちらが合うかは、たるみの程度によって変わります。
溶ける素材が使われますが、日本では承認された糸が一つもなく、すべて国内未承認品です。万一の健康被害は国の救済制度の対象外となります。この点をご理解いただいたうえでご検討ください。
麻酔で痛みをやわらげて行います。施術後は数日〜しばらく、腫れ・つっぱり感・内出血が出ることがあります。感じ方には個人差があります。
頻度は高くないとされますが、感染による糸の抜去や、顔面神経の麻痺などの重い合併症が起こり得ます。だからこそ、事前の説明と、トラブル時に一貫して診られる体制が大切だと当院は考えています。
たるみの程度によって必要な本数は変わります。本数が多いほど費用も負担も増えます。診察のうえで、無理のない範囲をご提案します。
糸リフトは、とげの付いた溶ける糸で下がった組織を引っかけて持ち上げる、切らないたるみ治療です。手軽さという良い面がある一方で、公的な診療指針でも「効果は大きくなく持続も短め」と評価され、国内に承認された糸が一つもないこと、そしてまれに感染や顔面神経の麻痺といった重い合併症が起こり得ることを、正直にお伝えしなければなりません。当院は、こうした限界とリスクを先にお話ししたうえで、本当に糸リフトが合うのかどうかを一緒に考えることを大切にしています。
新潟で「頬やフェイスラインのたるみが気になるけれど、どの方法が自分に合うのか分からない」とお悩みの方は、まず当院にご相談ください。三条市の当院では、皮膚科専門医がたるみの状態を診たうえで、糸リフトだけでなくほかの選択肢も含めて、あなたに合った方法を一緒に考えます。良い面もそうでない面も知ったうえで、納得して選んでいただくお手伝いをいたします。