蜂窩織炎(ほうかしきえん)は、皮膚の深い部分である真皮から皮下組織にかけて、細菌が入り込んで起こる感染症です。「蜂窩(ほうか)」とは蜂の巣のことで、脂肪組織が蜂の巣のような構造をしていることから、この名前がつきました。多くは片方のすね(下腿)に、境界がぼんやりとした赤い腫れとして現れ、触ると熱を持ち、押すとズキズキと痛みます。発熱や寒気をともなうこともあります。当院にも、釣りや草むしりのあとに脚が赤く腫れて来られる患者さんが少なくありません。決してめずらしい病気ではなく、正しく治療すれば多くはきちんと治りますので、どうか安心してお読みください。
皮膚は本来、外の世界から体を守る「頑丈な壁」の役割をしています。ところが、その壁にほんの小さなすき間ができると、そこから細菌が奥へと忍び込み、内側で暴れ出すことがあります。これが蜂窩織炎の正体です。原因菌の多くは溶連菌(ようれんきん)や黄色ブドウ球菌という、私たちのまわりにありふれた細菌です。
「ただ脚が赤く腫れているだけ」と自己判断してしまうのが、この病気のこわいところです。蜂窩織炎は放っておくと、感染がどんどん深く広がり、高熱や全身のだるさを引き起こし、入院が必要になることもあります。とくに気をつけていただきたいのが、見た目はよく似ているのに命に関わる別の病気が隠れていることです。
最も注意すべきは壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)という、筋肉を包む膜まで感染が一気に進む重い病気です。次のようなサインがあれば、夜間でも迷わず救急を受診してください。
こうした緊急事態を見分けることこそ、皮膚を専門に診る私たちの大切な役目です。少しでも心配なときは、我慢せずに受診してください。
当院ではまず、赤み・熱感・痛みの範囲をていねいに観察し、脚のむくみや傷、水虫の有無まで含めて全身を診ます。多くの蜂窩織炎は特別な検査をしなくても診断できますが、重症が疑われる場合や、糖尿病など持病がある方には血液検査を行い、炎症の強さを数値で確認します。丹毒(たんどく)や、後述する血栓の病気との見分けも大切にしています。
治療の基本は抗菌薬(こうきんやく)です。軽症〜中等症であれば飲み薬で外来治療が可能ですが、高熱がある、痛みが強い、広範囲に及ぶ、といった場合には、点滴治療のできる病院へ速やかにご紹介します。無理に外来で引っ張らず、必要なときは適切な連携先へおつなぎする、その見極めを重視しています。
片側の下腿に多く、境界のはっきりしない赤み・腫れ・熱感・痛みが基本の4つのサインです。表面がテカテカと張ったように見えたり、押すと痛んだりします。進行すると発熱・寒気・だるさが出ます。両脚が同時に真っ赤になることはむしろまれで、その場合はうっ滞性皮膚炎など別の原因を考えます。
転んだ擦り傷や虫刺されをかき壊した部分から起こることが多く、顔や脚に現れます。機嫌が悪い・発熱するなど、症状の進行が早いことがあるため、早めの受診が安心です。
脚のむくみ、糖尿病、乾燥した皮膚のひび割れなどが重なりやすく、再発をくり返す方もいます。痛みや発熱をあまり感じないまま進むこともあるので、赤みに気づいたら軽く見ないことが大切です。
細菌は空を飛んで皮膚を突き破るわけではありません。かならず侵入門戸(しんにゅうもんこ)、つまり細菌が入り込む「玄関口」が必要です。頑丈な城壁に開いた小さなくぐり戸を思い浮かべてください。その小さなすき間から敵が忍び込むのです。
玄関口になりやすいのは次のようなものです。
そして、いったん入った細菌が暴れやすい土壌となるのが、糖尿病(免疫の力が落ちる)や脚のむくみ・リンパのうっ滞(水はけが悪く細菌が広がりやすい)です。新潟は水辺で過ごす機会も多い土地柄ですから、釣りや川遊びのあとの小さな傷を、どうか侮らないでください。
治療の主役は抗菌薬です。原因菌の多くは溶連菌と黄色ブドウ球菌なので、これらに効く薬を選びます。代表的なものにセファレキシン(ケフレックス®)やアモキシシリン/クラブラン酸(オーグメンチン®)があります。症状が良くなっても、菌を残さず退治するため、処方された期間はきちんと飲みきることが再発防止の鍵です。
薬とあわせて大切なのが患部の安静と挙上(きょじょう)です。脚であれば、横になって心臓より高い位置にクッションなどで持ち上げます。こうすると、たまった余分な水分と炎症が流れやすくなり、腫れと痛みが引きやすくなります。あわせて、感染の入口となった水虫や傷そのものの治療も行います。入口をふさがなければ、また同じことがくり返されるからです。重症の場合は入院のうえ点滴で抗菌薬を投与します。
蜂窩織炎は一度かかると再発しやすい病気です。次の点を習慣にしていただくと、くり返しを大きく減らせます。
A. 蜂窩織炎そのものが人から人へうつることは、通常ありません。皮膚の内側で起こる感染なので、握手やタオルで他人に感染させる心配は基本的に不要です。
A. 熱をもって痛むときに、タオルでくるんだ保冷剤で軽く冷やして楽になるぶんには構いません。ただし冷やしても病気そのものは治りません。あくまで気休めとお考えいただき、必ず受診と抗菌薬治療を受けてください。
A. 高熱がある急性期は、湯船につかると血流が増えて腫れや痛みが強まることがあります。症状が強いうちはシャワーで清潔を保つ程度にとどめ、落ち着いてきたら入浴を再開しましょう。
A. 軽症であれば、抗菌薬を飲み始めて2〜3日で赤みや痛みが和らぎ、1〜2週間で落ち着くことが多いです。改善しない、または悪化するときは早めに再受診してください。
A. 蜂窩織炎は皮膚の深い部分の感染なので、塗り薬は表面までしか届かず、飲み薬による治療が必要です。自己判断で様子を見ず、受診をおすすめします。
蜂窩織炎は、皮膚の深い部分に細菌が入り込んで起こる、片脚の赤い腫れと痛み・発熱が特徴の感染症です。水虫や小さな傷が入口になり、糖尿病やむくみがあると起こりやすくなります。抗菌薬と安静・挙上でしっかり治せる一方、見た目に不釣り合いな激痛・急速な悪化・紫斑や黒色化があれば、壊死性筋膜炎という命に関わる病気のサインで、緊急受診が必要です。「ただの腫れ」と決めつけず、気になる赤みは早めにご相談ください。入口となる水虫の治療と日々のスキンケアが、再発を防ぐいちばんの近道です。
丹毒(たんどく)…蜂窩織炎より浅い、真皮の表層に起こる溶連菌感染。境界がくっきりと盛り上がり、赤みが鮮やかで顔にも出やすいのが特徴です。
壊死性筋膜炎…筋膜まで急速に及ぶ致死的な感染症。見た目に不釣り合いな激痛、紫斑、水疱、皮膚の黒色化が警告サインで、緊急手術を要します。
深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)…脚の静脈に血の塊ができ、片脚がむくみ赤く腫れる。肺の血管に飛ぶと危険で、蜂窩織炎との鑑別が重要です。
うっ滞性皮膚炎…脚のむくみが続いて起こる慢性の炎症。多くは両脚に左右対称で、色素沈着やかゆみをともない、発熱はまれです。
接触皮膚炎(かぶれ)…植物や金属、薬品などに触れて起こる湿疹。かゆみが強く、触れた形に一致した赤みや水ぶくれが出ます。
帯状疱疹…水痘ウイルスの再活性化で、体の片側に帯状の赤みと小水疱、ピリピリした痛みが出ます。神経に沿う分布が手がかりです。
痛風発作…尿酸の結晶が関節にたまり、足の親指の付け根などが真っ赤に腫れて激しく痛む。関節に一致した炎症が特徴です。
虫刺され(刺咬症)…蚊やブヨ、蜂などに刺された反応。中心に刺し口があり、かゆみが主体。かき壊すと蜂窩織炎の入口になります。
結節性紅斑…すねに左右対称の痛い赤いしこりが多発する。感染や薬、全身の病気が背景にあることがあり、経過が異なります。
下腿浮腫・リンパ浮腫…水はけの悪さで脚がむくむ状態。赤みや熱感は乏しく、これ自体が蜂窩織炎を起こしやすくする土台になります。
アキレス腱炎・関節炎…運動や加齢による腱・関節の炎症で腫れと痛みが出る。皮膚の赤みや発熱は目立たず、動作時の痛みが中心です。
血栓性静脈炎…表在の静脈に沿って赤く硬いすじ状のしこりができ痛む。索状のかたまりを触れるのが蜂窩織炎との違いです。